著者紹介
吉井理夫
近鉄→メジャーリーグを経て2007年引退後からコーチに転向
2014年 コーチング技術習得のため、筑波大学大学院入学
2016年 日本ハムファイターズ一軍コーチ
コーチは教えない
強制的な指導では目的を見失う。ミスの指導は自尊心を傷つける。
コーチの常識は選手の非常識である。
理想的なコーチのために、①相手の観察②話し合うことが大切。
相手への信頼とやる気を出させる言葉。具体的にはただ「やれ」ではなく「どうしたいか?」その答えに対して「やりなはれ」と促す。つまり、相手の主体性を促すことで選手の自主性を育てる。特に参考になったセリフが「何でも質問に答えるので、参考書代わりに使ってよ」であった。
個が伸びなければ組織は強くならない
組織が求める能力よりも個人の持つ能力を伸ばす。
指導には①指導行動:スキルの習得方法を教えることと、②育成行動:選手個々に適した指導の2つがある。小さい課題(と成功)から成長のスパイラルを作る。できるだけ易しい課題を設定し、達成したら振り返る。そして、また課題設定から振り返ることで、課題を自己設定する習慣を身に着け、振り返りで課題設定の正しさを検証する。つまり、達成できない課題は適切でないことになる。この時、コーチは絶対に「答え」を言ってはいけない。なぜなら、好奇心が向上心を生み、課題を設定させるからである。失敗が怖くてトライしないのが、野球選手として一番かっこわるいと著者は書いている。好奇心と小さな成功体験の繰り返し。いくつもの啓発本で見かけるフレーズだが、これこそ真理なのかもしれない。
コーチングの三つの要素
①観察:相手の特徴をリサーチする。具体的には技術レベル、性格、食生活、睡眠時間。それは自己申告ではなく他者からの情報でより客観視される。情報を得たそのつどメモを残して置くことも大切である。
②質問:自分のプレーを言葉で表現できる。つまり自分の行動を言語化することで、パフォーマンスを身に着けることができる。不調時にも好調であった時と何が異なるのかを客観的に見つめ直し修正することができるようになる。逆に言語化できないということはイメージと行動にギャップがあることになる。言語化の練習として、プレーを映像でとる、日記を書くなどがある。日記は誰が読んでもわかるようになるよう書く。こうすることで、自分を俯瞰し、パフォーマンスを振り返ることができるようになる。コーチは言語化された内容を肯定することで、信頼を獲得することができる。もし、考え方を変更したい場合は、押しつけではなく、説得が有効である。つまり、本人のやり方を容認しつつ、今回その方法ではうまくいかなかったが何が原因であったかを、本人に考えさせ答えを導きださせる。相手の主体性を尊重し、信頼関係を築くことができる。
③代行:相手の立場に憑依する。どのように言えばわかるのかをイメージする。これまでの観察、質問、客観視で形成した選手になり切り考える。そのためには、有能なインタビュアーになる。
成長のために、自ら課題を設定させる
課題を言語化し、自己解決能力を強化する。目的とは何をしたいか、何をするべきかといった抽象的な未来像であり最終的な到達点である。例えば、お金持ちになりたいなど。その目的を達成するためにクリアしなければならないことが目標である。前の例でいえば、No1の営業成績を残すなど。そして、目標を実現するために障害となっている状態や行動が課題である。こちらも前の例でいえばアポイントを10個とるなど。この小さな課題をクリアし続けることで自らを成長させる。目標は変わってもいい。これは自分の立ち位置や成長度合いで変化していくものであるので、一つの目標にこだわる必要はない。
最高の結果を出すコーチの9つのルール
①最高の能力を発揮できるコンディションをつくる
身体のコンディション作りのためには、トレーニングと食事、なにより休養が大事。反復練習のあとも休むことが大事である。日々のコンディショニングを植え付けることで、パフォーマンスをあげる。
②感情をコントロールする
腕組みは相手を威圧するため、しない。表情、口調を変化させないことで感情をコントロールする。
③周りがみていることを意識させる
周囲の視線を意識することで、プロ意識が形成される。小さな習慣を継続させることで、持続する力をつける。具体的には最後まで本を読むなど。チームは一人ひとりの集合体であり、組織やチームを個人より優先させる日本と、個人の強みを集合させることで組織を作る米国を対比していた。
④落ち込んだときは、すぐに切り替えさせる
悔しい感情はその場で爆発させ、次のステージにすすむ。大声で叫ぶなどでスイッチを切り替えることで、自分にあったストレス解消方法を見つけさせる。他の例としてはウエイトトレーニングやエアロバイクなど。気持ちが切り替わるまでチームにいなくてもいい。小さな課題のクリアがメンタルを強くする。
⑤上からの意見をどう現場のメンバーに伝えるべきか
現場にマイナスになる可能性の指示には疑問を投げかける。そうすることで、現場に責任を負わせず、明確な指示で安心させる。現場レベルで部下が考えていることと、マネジメントの立場で全体を見る上司が考えていることには、大きな隔たりがある。時には意訳して伝えることが大切である。
⑥現場メンバーの的確な情報を上司へ伝える
客観的なデータを集めて冷静に提案する。プロのやり方を何も知らないのに、何も教えないのはコーチの責任である。
⑦目先の結果だけでなく、大きな目的を設定する
将来にわたって安定を任せられる人になってほしい。そのために、アドバイスをするタイミングを見逃さず、そうするために選手の状態を観察する。
⑧メンバーとは適切な距離感を持って接する
近すぎると言わなければならないことが言えなくなる。2人で話す時は要件だけ簡潔に伝える。丁寧な言葉遣いを心がけることで、互いを尊重し合うことができる。
⑨仕事ができて、人間として尊敬されるひとを育てる
チャリティとしてのお金の寄付もいいが、技術を還元することも大切である。これはダブルゴール(プロとしての成熟と社会的貢献)を目指すことにつながる。この目的はより広い視点から行動に対する自覚が芽生えることになる。
総括、感想
コーチングについての本。選手指導だけでなく、セルフコーチングにも応用できそう。自分で課題を言語化して、課題をクリアすることを継続することで能力を伸ばすことができる。現在取り組んでいる筋トレにも共通する。大事なので、問題を言語化し客観視すること。
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